建設業のヒヤリハット|AIは再発防止にどこまで使える? — シクミル | シクミカ.ラボHow To
建設業のヒヤリハット|AIは再発防止にどこまで使える?
現場からヒヤリハットの報告が上がる。
朝礼で内容を共有し、
「次から気をつけよう」と声をかける。
そこまではできていても、
過去の報告までさかのぼって比べるとなると手間がかかります。
「前にも似たことがあった気がする」
そう思っても、どの報告だったのか探せない。
結果として、一件ずつ共有して、
そのまま保管されていることもあります。
ヒヤリハットは、
報告数を増やすことだけが目的ではありません。
集まった報告を、次の現場で使える形にする。
ここにも改善できる余地があります。
この記事では、厚生労働省が公開している
建設業のヒヤリハット3事例を使います。
発生状況だけをChatGPTへ渡し、
の4項目に整理します。
その結果を、
厚生労働省が示している原因・対策と比較します。
ここでAIに任せたいのは、
事故原因を決めることではありません。
過去の報告を整理し、
現場で何を確認するか考える材料を作ることです。
今の安全管理を一から変えるのではなく、
報告した後の工程だけにAIを足せないかを考えます。
目次
ヒヤリハットを集めても再発防止につながりにくい理由
報告して注意喚起したところで止まりやすい
ヒヤリハット報告は、
提出すること自体がゴールではありません。
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」では、
墜落・転落、転倒、激突され、
はさまれ・巻き込まれなど、
事故の型ごとにヒヤリ・ハット事例が公開されています。
2026年8月25日時点で、
掲載されている事例は合計451件です。
一件ずつ共有するだけでも、
安全を考えるきっかけにはなります。
報告を残すことと、
残した報告を次に使うことは別の作業です。
文章のままでは横に並べにくい
- 何をしていたか
- 周囲に何があったか
- 人と物の位置関係はどうだったか
- 何が動いていたか
- 現場で何を確認したいか
という形に揃えると、
横に並べて見ることができます。
AIを使うなら、
まずはこの「報告を揃える作業」から試します。
ベテランの記憶を置き換えるのではなく、探しやすくする
こうした記憶は、
現場経験の長い人が持っている知見です。
判断基準は「AIに事故原因を決めさせないこと」
建設業のヒヤリハットでAIを使うなら、
最初に線を引いておきたい部分があります。
AIの出力を、そのまま事故原因として扱わないことです。
AIが確認できるのは、
入力された文章の内容までです。
答えを決めてもらうのではなく、
現場に戻って確認するための材料を作ります。
厚生労働省の建設業ヒヤリハット3事例で試す
同じ種類の事故だけを並べるのではなく、
違う事故を同じ項目に揃えたときに、
何が見えるかを確認するためです。
今回使う3事例
1件目は、
枠組み足場の作業床で転倒しそうになった事例です。
建設工事現場の作業床を移動中、
布板を結束していた番線につまずき、
筋交いにつかまって転倒を免れています。
【出典】厚生労働省|職場のあんぜんサイト
「枠組み足場の作業床で転倒しそうになった」
事例の原文を見る
2件目は、
クレーン作業中につり荷が作業者へ激突しそうになった事例です。
木造建築用資材を荷下ろししていたところ、
つり荷が揺れながら旋回し、
玉掛け作業者へ激突しそうになっています。
【出典】厚生労働省|職場のあんぜんサイト
「クレーン作業中につり荷が作業者に激突しそうになった」
事例の原文を見る
3件目は、
建設機械のアタッチメント交換中に指を挟みそうになった事例です。
交換作業中にアタッチメントが傾き、
シリンダーとの隙間に
指を挟みそうになっています。
【出典】厚生労働省|職場のあんぜんサイト
「車両系建設機械のアタッチメントを交換していたところ、シリンダーとアタッチメントの隙間に指を挟んでしまいそうになった」
事例の原文を見る
この3件を、
同じ条件でChatGPTへ渡します。
発生状況だけをChatGPTに渡して4項目に整理する
今回ChatGPTへ渡すのは、
厚生労働省が公開している
「ヒヤリ・ハットの状況」の部分だけです。
公開ページに掲載されている
原因や対策は先に渡しません。
答えを見せた状態で整理させると、
AIが発生状況から何を拾ったのか分からなくなるためです。
- 状況
- 環境
- 原因候補
- 再発防止のために現場で確認したいこと
実際に使うプロンプト
以下は建設現場で起きたヒヤリハットの発生状況です。
この文章だけをもとに、次の4項目へ整理してください。
1. 状況
2. 環境
3. 原因候補
4. 再発防止のために現場で確認したいこと
原因を断定しないでください。
原文に書かれていない内容を事実として追加せず、
必要なものは「確認候補」として扱ってください。
事例1 足場上で番線につまずきそうになった
厚生労働省の事例では、
作業床を移動中に
布板を結束していた番線につまずいています。
ChatGPTは何を確認候補として挙げたか
【事例1を実際にChatGPTへ入力した結果】

厚生労働省が示している対策と比べる
- 足場に段差がないように組み立てる
- 足場をよく点検する
- 番線や紐など、足が引っかかるものを放置しない
【出典】厚生労働省|職場のあんぜんサイト
「枠組み足場の作業床で転倒しそうになった」
原因・対策を確認する
・番線が足元に出ていた、または放置されていた可能性
→ 厚生労働省の「番線や紐など、足が引っかかるものを放置しない」「足場をよく点検する」という対策と重なっています。
【公開元にはあったがChatGPTから出なかった内容】
→ 元のヒヤリハット文が「足場上で番線につまずきそうになった」だけだったため、ChatGPTは足場そのものの段差を確認候補として挙げませんでした。
この比較からは、AIは原文から直接想定しやすい「番線の処理」や「足元の確認」は拾えた一方、原文に書かれていない「足場の段差」という別の転倒要因までは拾えていなかった、と整理するのが自然です。
ここでは、
AIが拾えた部分だけでなく、
拾えなかった部分も残します。
事例2 クレーンのつり荷が作業者に接触しそうになった
資材の荷下ろし中、
つり荷が揺れながら旋回し、
玉掛け作業者へ激突しそうになっています。
ChatGPTは何を確認候補として挙げたか
【事例2を実際にChatGPTへ入力した結果】

厚生労働省が示している対策と比べる
- 地上の作業者はつり荷へ近づかない
- 旋回を抑える必要がある場合は、荷にロープを結んで操作する
【出典】厚生労働省|職場のあんぜんサイト
「クレーン作業中につり荷が作業者に激突しそうになった」
原因・対策を確認する
ChatGPTでは、「つり荷の移動範囲への立ち入りをどのように管理していたか」を確認候補として挙げました。これは、厚生労働省が示す「地上の作業者はつり荷に近づかない」という対策と方向性が重なっています。
【公開元にはあったがChatGPTから出なかった内容】
厚生労働省では、つり荷が旋回しないよう支える必要がある場合、「荷にロープを結び、引っ張りながら行う」という具体的な対策まで示しています。今回のChatGPTの出力では、つり荷の移動経路や周辺への立ち入りについては確認候補を出せましたが、荷の旋回をロープで抑えるという具体的な方法までは出てきませんでした。
事例3 アタッチメント交換中に指を挟みそうになった
3件目は、
車両系建設機械のアタッチメント交換です。
交換作業中にアタッチメントが傾き、
シリンダーとの隙間に
指を挟みそうになっています。
ChatGPTは何を確認候補として挙げたか
【事例3を実際にChatGPTへ入力した結果】

厚生労働省が示している原因・対策と比べる
厚生労働省では、
アタッチメントの転倒などを防ぐ措置が
十分に取られていなかったことを原因として挙げています。
- 交換用架台などで転倒防止措置を取る
- 交換作業を指揮する人を定める
- 架台などの使用状況を監視する
【出典】厚生労働省|職場のあんぜんサイト
「車両系建設機械のアタッチメントを交換していたところ、シリンダーとアタッチメントの隙間に指を挟んでしまいそうになった」
原因・対策を確認する
ChatGPTでは、再発防止のための確認事項として、
「アタッチメントが動かない状態で交換していたか」
「交換手順が決められ、作業者に共有されていたか」
「複数人で作業していた場合、合図や役割分担が決められていたか」
このうち、
「アタッチメントが動かない状態で交換していたか」は、厚生労働省の「転倒防止措置」と方向性が重なっています。
また、「合図や役割分担が決められていたか」という確認候補は、厚生労働省の「交換作業を指揮する人を定める」という対策に近い観点です。
【公開元にはあったがChatGPTから出なかった内容】
一方、ChatGPTの出力だけでは具体的に拾えなかったのが、
・交換用架台などを使って、アタッチメントの転倒を防止すること
・交換用架台などが適切に使われているか監視すること
「複数人で作業していた場合、合図や役割分担が決められていたか」という確認候補は出ていました。
そのため、作業体制という観点までは拾えていたと考えられます。
ただし、厚生労働省が示す「作業を指揮する人を定める」という具体的な管理方法までは出ていませんでした。
3事例を並べて分かったこと
| 事例 | ChatGPTが出した主な確認候補 | 公開元と重なった部分 | AIから出なかった部分 |
|---|
| 足場上の転倒 | 番線の処理・足元の整理 | 番線を放置しない/足場点検 | 足場の段差をなくす |
| クレーン作業 | つり荷への立ち入り管理 | つり荷へ近づかない | ロープで旋回を抑える |
| アタッチメント交換 | 安定・手順・役割分担 | 転倒防止/作業体制 | 交換用架台/架台の監視 |
3事例を比べると、
ChatGPTは発生状況に書かれている物や動作から、
といった具体的な設備対策までは
出ないケースがありました。
今回の3件を見る限り、
ChatGPTは事故対策を決める役というより、
短い報告文から、現場で確認するポイントを洗い出す補助役
この結果から、
「建設業では○○が多い」といった
業界全体の傾向までは判断できません。
AIで整理した内容は現場へ戻す
整理表を作って終わりでは、
管理する資料が増えるだけです。
「歩行する場所に、足を引っかける物は残っていないか」
「動いたり傾いたりする物を固定してから作業できているか」
AIで整理した内容を、現場から答えを聞くための問いに変える。
今ある朝礼や安全ミーティングへ
一つ確認項目を足すくらいから試せます。

AIを使うならやらない方がいいこと
1.事故原因をAIに決めさせる
今回も、厚生労働省の対策を
ChatGPTがすべて拾えたわけではありません。
原因候補や確認事項の整理までに留め、
判断は現場で行います。
2.氏名や取引先名をそのまま入力する
分析に不要な氏名や取引先名、
個人を識別できる情報は外して扱います。
ChatGPTを社内情報に使う場合は、
利用しているプランやデータ設定、
自社の情報管理ルールも確認が必要です。
【参考】OpenAI|Data Controls / Business data privacy
3.最初から過去の報告を全部入れる
報告方法や安全管理システムまで、
同時に変える必要はありません。
まとめ
今回、厚生労働省が公開する
建設業のヒヤリハット3事例をChatGPTで整理しました。
- 足元の確認
- つり荷への立ち入り
- アタッチメントの安定や役割分担
一方で、
公開元にある具体的な設備対策まで
拾えないケースもありました。
事故原因や対策を決めさせるのではなく、
過去の報告を整理して次の確認につなげる。
この使い方から始めるのが、
今回の検証で見えた範囲です。
まずは数件の報告を同じ形に揃え、
「似た危険が今の現場にもないか」を確認する。
よくある質問
建設業のヒヤリハット事例はどこで探せますか?
厚生労働省の
「職場のあんぜんサイト」で確認できます。
2026年8月25日時点で、
451件のヒヤリ・ハット事例が掲載されています。
【出典】厚生労働省|職場のあんぜんサイト「ヒヤリ・ハット事例」
ChatGPTが出した原因候補をそのまま使えますか?
AIが公開元と違う内容を出したらどうしますか?
AIが拾えなかった内容も、
どこまで任せられるか判断する材料になります。
紙やExcelの報告でも使えますか?
ChatGPTへ入力できる形にすれば、
同じ整理方法を試せます。
紙の場合は、
画像から文字データへ変換する方法もあります。
氏名が入った報告を入力しても大丈夫ですか?
この記事では、
分析に不要な氏名や取引先名は
外してから扱う前提です。
利用するAIの設定と、
自社の情報管理ルールも確認してください。
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社内の資料や報告書がバラバラで、
AIへ渡す前の整理に時間がかかる場合は、
ファイルの整理から始める方法も紹介しています。
AIを導入したものの、
現場で使われなくなってしまう場合はこちらです。
今のヒヤリハット報告にAIを足せるか診断する
AIを使うために、
今の安全管理を全部変える必要はありません。
シクミカ.ラボでは、
現在の業務フローを確認しながら、
「今のやり方を残したまま、どこにAIを足せそうか」
今使っている報告方法や、
AIへ渡せる情報を整理しながら、
小さく試せるところを探します。
業務改善のご相談、
お気軽にどうぞ。
記事の内容について深掘りしたい方も、別件でも歓迎です。